( リンク )より引用
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   第1編 細胞と生物学

【9】細菌の起源

 ① 原生物界と前生物界

 ミンチンは植物界と動物界との共同祖先を、ヘッケルにならって原生物界とし、これにバクテリアや単細胞藻類、菌類、原生動物を含めています。動物と植物とを究極的にまた明確に区別することは困難ですからこの分類は意義あるものといえます。ミドリムシ、粘菌類のような植物鞭毛虫類は植物と動物の両方に分類されており、これらを総括して原生界に含ませるのも妙案といえます。

 もともとが葉緑素の有無、栄養摂取の方法によって植物と動物に区別しようとすることは実際として不可能なことは、あとで述べます淡水海綿のように、組織の大部分が葉緑素からなるクロレラから構成されていることからも分かります。

 だいたいが連続的である自然や生物を分類して考えることは、人為的な無理が生じてしまいます。 そこで千島喜久男は定型的な細胞構造をもっていない、バクテリアや菌類、単細胞藻類などを一括して動物界、植物界に対する一つの界として原生物界とするヘッケルの提案に賛同しています。そして、もし必要とすればバクテリア界の下次段階として前生物界を設け、リケッチアやウイルスをこれに含めるのも一方法ではないかと提案しています。
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 ②細菌は細胞か?

①細菌に細胞的構造はあるか?

 生命というものは生物がもつ特性であり、また構成単位は細胞であることは現在の生物学における常識になっています。そして細菌は生物であるとされていますが、生物だとしたら細菌というものは果たして細胞なのかという疑問が生じてきます。この問題から考えてみましょう。

 細菌は一見して核のような物質を含んでいることは一般に知られています。ウイリアムは或る細菌は他の細胞と同様な構造と官能をもっていると考え次のようにいっています。

 『大部分の細胞学者は細菌は核様体をもっているということに意見が一致している。そしてレバーグは細菌中で遺伝子が線状に配列し、遺伝子の分離や高等生物とは異なるが性的結合などが起きると報じている。もっともこれは或る種の細菌にのみ見られたことである』といい、さらに『実験結果から細菌に核構造があること、形質分離の現象が見られ、細菌がより高等な生物に進化するものである』といってレバーグの説に賛同しています。レバーグはその後多くの研究者の仕事や自分の研究を総合して『細菌は有性生殖を行うほかの生物と同じような遺伝的現象を示す』として細菌の細胞としての条件を充たしているとしています。細菌が定型的な細胞構造をもつということは多くの疑問があると千島喜久男はその著書に述べていますが、ウイリアムがいうような、より高等な生物に分化するという可能性については認めたいといっています。

②細菌に核はあるのか?

 この件については、古来から異論が氾濫し今日においても結論は出ていません。或るものは核の存在を否定し、また或る研究者は細胞核の存在を主張しています。

 ブラドフイールドは研究の結果、細菌の核と動植物の細胞核とは著しい相違があることを知り、核の進化について次の様な段階があるのではないかと考え報告しています。

 a・・・・・DNAとRNAとを共に含んでいるが、染色体構造、核、核小体などはまだ存在しない状態、即ち小又は中等大のウイルスの段階。

 b・・・・・DNA及びRNAがほぼ形成された核内の特殊構造中(染色体及び核小体)に位置し、その核は直接分裂で増殖する細菌又は大型ウイルス。

 c・・・・・動植物細胞の核であり、完全に分化し且つ有糸分裂によって増殖する核の状態。

 という段階です。これは一応はもっともな考えだと思われますが、千島喜久男はつぎのような批判をしています。即ち……

 『①は、まったく核酸の存在しない所に先ずRNA、次にDNAが現れ、次いで主としてDNAを含む核に変化すると考えるのが妥当。②細菌増殖は分裂によってのみ起きるということを基礎にしているが、これは間違った考え。③動植物細胞は凡てDNAを含む定型的な核ばかりだと考えることは妥当だといえない。鳥類、哺乳類、両棲類、昆虫その他の動物でも、また高等植物の細胞でも、いつも定型的(化学的にも形態的にも)な核をもつとは限らないことは、私の研究結果からはっきり云えることである。言い換えれば、生理的ウイルス→細菌→動植物細胞という過程をたどる核合成過程は、細胞の核質を形成する過程として動植物に共通の現象である』と。

 多くの研究者が動植物の細胞核に共通した核の存在を主張していますが、これについても千島喜久男は彼らが提示している図を見ても『いわゆる分散核の域を出ないものであり、また細胞分裂像だとしている図も両端染色性菌の範囲を出ないもので、当然に紡錘糸や染色体などは示されていない』としてその妥当性を否定しています。

 正統派の研究者たちは細菌の核は一般の細胞核と同様に分裂すると強く主張していますが、それは疑いなくウイルヒョウの正統細胞学の原理を細菌の世界にまで適用しようとしているためでしょう。 なぜなら、自然状態では決して細胞は分裂するものではないことを千島喜久男が確認しているからです。細菌は有機物質から自然に発生し、また細菌はいつまでも細菌のまま存在するのではなく、融合と分化によってより高次の生物へと進化するのが通常の発育過程なのです。




本田友人